(1)短期的な利益追求
短期的な企業利益の追求のみに目がいってこころの余裕を失い、利益の上がるものを見つけるのに血眼になって無意識に競争に力を注ぐばかりに、誇りや道徳観を二の次にしています。そういった姿勢に嫌気がさす中堅の社員も多く、自分の価値観、こころの基盤を失いつつあります。向上心や問題意識を持った社員ほど、そういったコンプライアンスに関する葛藤を感じています。
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(2)仕事量の増加と過重労働
コスト削減の中で企業は常にぎりぎりの人員体制で経営活動をしています。しかし、一方で顧客や取引先へのサービスをもっと充実させたいとも思っています。また社会環境の変化に伴い、夜間、休日を問わずに稼動することを要求されるサービス業などの仕事もますます広がっています。必然的に、従来よりも少ない人員体制でますます大きな労働量をこなさなければならず、心身ともに過重な状況で働き続けることを余儀なくされるというケースが増えています。
雇用環境はますます厳しくなり、企業の人減らし傾向も強まっているために、多少の無理な労働条件にも甘んじて従わざるを得ないと考えてしまいがちです。また、残業カットが厳しくなる中で、いっこうに減らない仕事をこなすために、サービス残業をするという矛盾したケースも増えて、大きな問題となっています。
一方、事業者には労働安全衛生法によって、メンタルヘルス不調を含む作業関連疾患の管理が義務づけられています。事業者は、業務に密接な関係を有する労働者の健康の管理として、把握可能な疾患について適切な対応をすることが必要とされています。また、安全配慮義務によっても、事業者による労働者の職場でのメンタルへルス不全の予防と対応が義務づけられています。対策としては、事業者が労働者の健康管理をリスクマネジメントの一貫として考え、職場での問題を把握し、適切な対応をすることが求められています。事業者が労働安全衛生法の規定を守っていても過失が認められた場合は責任が問われることになります。
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(3)仕事の細分化、専門化
多くの仕事の現場では、次々と変化する顧客の情報やサービスの広がりにより、「現場の知識が追いつかない」、「担当者しかわからない」などの問題が生じています。
結果として、専門化・細分化された仕事が多くなり、いくらキャリアがあっても応用が効かず、一から学び直さなければいけないということも発生しているようです。
こうした状況は仕事の質・量の管理を難しくさせ、結果として、一人の人への負担が大きくなる傾向が強まっているのが特徴です。 |
(4)雇用形態の多様化
職場ストレスの大きな要因として、派遣社員の広がりなど雇用形態の多様化に伴う問題もあります。仕事の専門化、人件費の削減、アウトソーシングの広がりとともに、派遣社員や契約社員、出向といったさまざまな雇用形態が増えています。
正社員の間に入って働く派遣・契約社員は、時に、不明確・不安定な身分でありながら、微妙な配慮を要する人間関係の中で、仕事上はその会社の社員としての責務を果たすことを求められます。正社員と同じ権利や恩恵は得られないまま、忠誠心だけはしっかりと要求されるという状況もあります。逆に、契約社員だからやる気が感じられず、育成しにくい、という正社員の声も聞かれます。
現在、こういう多様な雇用形態のもとで生じるさまざまな精神的なストレスも見逃せなくなっており、こうした可能性について働き手、派遣先、受入先のそれぞれが、十分に配慮していくことが必要です。
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(5)コミュニケーション・ギャップ
核家族で縦横のつながりも薄くなり、多くの大人との接触、異年齢や多人数の集団で遊ぶ機会も乏しくなる一方で、受験戦争の激化、テレビ、ゲーム、ビデオなどの普及のため、いつでも疑似体験に囲まれ、自分のイメージの中にこもって過ごす時間が増えてきました。
こうして人との関係が希薄になる中で、直接の関わり合い、ぶつかり合いに慣れていない世代が、今、若手や中間管理職へと広がってきています。
こうして、相互に人間関係づくりを困難と感じる世代が広がっていく状況で、個人レベルでのコミュニケーション、対人関係のストレスの広がりとともに、人をどう教育し管理したらよいのかという各組織の管理者の困難もますます広がっています。
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(6)コミュニケーション手段の多様化
現在は情報化が進み、パソコン、メール、携帯電話など、コミュニケーションの手段も多様化してきました。相手の状況にかかわらず一方的に情報を流すことが可能になり、「情報が流れているから、気持ちも流れている」という錯覚が生じがちです。
情報の伝達手段は大きく広がったにもかかわらず、それを使いこなして「気持ち」の交流をうまく図るための人間のスキルが、それに追いついていないように感じられます。情報化の進展は、劇的にコミュニケーションを活性化したようにもみえますが、対人関係という面で見ると、不協和音や戸惑いを生む要因になっています。 |